今回の調査で、強く感じたことは、妊娠の成立における自然の偉大さです。人間が生物として、子孫を残すための機能として持っている生殖能力というのは、強力なもので、不妊を訴えて来院した方でも、最小限の治療で、50%以上の方に自然の妊娠が成立しています。生殖医療の発達はめざましいといわれていますが、医療の及ぶ範囲は決して大きいものではないという実感です。
男女とも35歳を過ぎても妊娠率は落ちませんし、既往歴でも男性の耳下腺炎以外、妊娠率に影響する疾病は見つかりませんでした。基礎体温の測定や、子宮卵管造影、精液検査等、不妊治療に不可欠といわれている検査でも、検査していない群の方が妊娠率が高いという結果でした。ほとんど何もしないでも60%くらいの方は妊娠するということです。
妊娠希望で来院した方には、はじめの治療として、
この二つのことを特に強調します。60%くらいの方はこれだけで妊娠しているのです。
月経不順の方、基礎体温が一相で排卵がない方、精液検査で異常があった方いずれの方も正常に近い確率で自然の妊娠が成立しています。代表的な治療法である、クロミフェン内服や人工授精も、治療による妊娠率はそれほど高くなく、治療終了後にかなりの方が自然に妊娠しています。治療法の選択にあたっては、異常の程度と治療の効果(妊娠率)を考慮して判断する必要があると思われます。
ABO血液型の不適合のように治療しにくい原因も存在することがわかってきました。ABO以外にも多くの血液型の存在が知られていますので、それらも妊娠率に関与していることが予測されます。今回の調査では、時間的な要素、すなわち不妊期間、妊娠するまでの期間などの調査までは、行いませんでしたが、今後その点も調査していきたいと考えています。
不妊の方に強調したいことは、自然の妊娠率というのはかなり高いので、決して焦らないことが大事です。先祖代々妊娠が成立したから子孫としての自分が存在しているのです。不妊の家系など存在するはずがないのです。日本人は、義理堅く、結婚すれば子供を作らないと、と考えますが、子供がいればかなり生活が制限をされるので、子供がいないうちは2人だけの生活を楽しむ気持ちも大切なのです。北欧からきた若い夫婦に、お子さんは?と聞いたら、そんな野暮なプライベートなことは聞くな!結婚と子づくりは別の話だと怒られた経験があります。
以上